2003年、ヒトの完全なゲノム配列が決定され、植物ではシロイヌナズナやイネの完全なゲノム配列が明らかにされています。さらに、転写・翻訳された機能性タンパク質の三次元構造も次々と明らかにされつつあります。このような状況において、新しい天然有機化合物の発見およびそれらをベースとした活性分子の合成は、様々な生命現象の解明や新しい医薬・農薬の創製にとってますます重要性を増してきました。
本書では、天然物化学、生物有機化学の観点から植物科学を横断的に取り扱い、総合的に編集した点でこれまでに前例のない試みです。個々の植物ホルモンは多彩な生物機能を示し、また二つ以上の植物ホルモン間の相互作用も認められています。最近、オーキシンやジベレリンなどのレセプターも見つかり、この分野における目覚ましい発展が期待されます。
また、植物は動物と異なり、自己の意思によって生活の場所を変えることが出来ません。従って、植物はあらゆる手立てを尽くして自分自身を守り、種を残そうとします。その一つの方法として化学物質による自己防御、同種間や異種間のコミュニケーションなど、植物は人知の及ばない能力を有しており、解き明かすべき課題も多く残っています。
最後に、多種多様な天然有機化合物が生体内でどのように生成されるのか、放射性あるいは安定同位体を用いた実験により生合成機構が明らかにされてきましたが、現在では分子生物学の手法もどんどん取り入れられるようになり、生合成経路のそれぞれのステップでどのような酵素が関与しているかも分かってきました。さらに一歩進んで、遺伝子操作による非天然型化合物も合成出来るようになりました。
以上のように、本書は天然物化学および生物有機化学の観点から生命現象から生薬・漢方薬、医薬品まで総合的に解説したものであり、一般の研究者にも対応出来るようになっています。(編著者)